【寺内インタビュー 第3回】図面60枚から始まった ― 頭の中で組み立てるということ
前回まで2回にわたって、寺内さんが溶接という仕事に出会うまでと、他社が断った仕事を引き受ける理由を伺いました。
第3回となる今回は、いよいよ具体的な仕事の中身です。図面60枚の機械フレーム、広島まで運んだ螺旋階段。頭の中で何が起きているのかを聞いていきます。
【寺内インタビュー 第2回】難しいほど、面白い ― 他社が断った仕事を引き受ける理由

図面60枚。通常の12倍から始まった仕事

―― 今日は実際のお仕事について伺います。これまでで一番印象に残っている案件は何ですか。
寺内 機械のフレームですね。コンビニやスーパーに並ぶ食品を作る、量産用の機械のフレームです。
―― コンビニだと、すさまじい数を作りますもんね。製作にはどれくらいかかったんですか。
寺内 最初のものは1ヶ月から1ヶ月半くらいですね。図面が複雑で、理解するまでに時間がかかりました。
―― 一般的な図面って、だいたい何枚くらいが目安なんですか。
寺内 通常は1枚から5枚くらいです。それが60枚ありました。
―― 桁が違いますね。
寺内 ひとつひとつ噛み砕いて、頭の中で想像しながら「こういうバラしか」「こういう計算やな」と全部やっていく。よく分からないところは一回計算してから、また考えてみる、という進め方です。
パズルみたいに、最初の1枚が40枚目につながる
―― 横で聞いていると、それだけ複雑だと大変というイメージが強いのですが、正直どうでしたか。
寺内 大変だったんですけど、完成していくにつれてパズルみたいにつながっていくんですよ。
最初にやったこれが40枚目につながってきたぞ、ここをきっちりやったからここは楽にいける、というのがいっぱい出てきて、最後には想像を超えるものが生まれている。
―― 大変というより、楽しさのようなものを感じられていると。
寺内 できたんだ、自分の手からこんなものが、と。本当に俺か、と思いながらやっていました。
―― 量産の機械なら、そこから膨大な量の商品が生まれて、世の中に広がっていきますよね。
寺内 これ俺が作ったな、とは思いますね。あんまり人には言わないんですけど、こっそり自分の中で。家族とか、ごく近い知人くらいには話します。
一番得意なのは、図面10枚で1個を作るもの

―― 60枚のような案件もあれば、いろいろあると思うのですが、一番得意なのはどの領域ですか。
寺内 難しければ難しいほど、ですね。図面10枚くらいで1個を作るようなものが、多分一番得意です。
―― それはどういう理由ですか。
寺内 作っていて、とてもワクワクするんですよ。もちろん大変ですし時間もかかりますが、10枚程度のものが程よく大変で、楽しい。
―― ちょうどいい塩梅なんですね。
寺内 やっている最中は鬼みたいなんですけどね。終わってから、ああ楽しかった、と。鬼みたいになるのも、楽しんでいることの一つなんじゃないかな、と思います。
―― ちなみに、図面が一番多かった案件はどれくらいなんですか。
寺内 130枚くらいのものもありますよ。1個1個は簡単なので、簡単に書いていった結果、枚数がすごいことになる。(机の向こう側を指さして)あれは50枚くらい、これは30枚くらい。極端なんですよね。
―― 極端ですね。
寺内 本当にもう受けてしまうからでしょうね、僕も。やってしまうんでしょうね、いつも。
「ここにはまる階段が欲しい」だけの図面から
―― 以前、螺旋階段を広島まで運んだ案件があると伺いました。どういう案件だったんですか。
寺内 下の入り口と上の入り口があって、ここにはまる階段が欲しい、と。最初は左側の入り口で、最後は右になるように。あとは高さが上までということ。それだけが書いてありました。
それをもとに計算していって、階段の枚数は何枚だな、と決めていきました。
―― 段数は仕様書に書かれていたわけではなく、ざっくりしたご要望を聞いたうえで、どういう作り方が必要かを全部ご提案されているということですか。
寺内 そうですね。これでいい、という形で。
―― 責任重大ですね。
寺内 階段は色々勉強した結果、1段の高さは300から350くらいが標準です。今回は290くらいの、ちょっと低めにしました。より登りやすいかなと思って。
―― ピッチが低すぎてもしんどいですし、高すぎても登りにくい。安全性の問題もありますよね。
寺内 そうですね。
螺旋になると、円周率の3.14では足りない

寺内 あと螺旋階段になると、円周率の3.14の先が必要になります。16桁くらいまであれば、より良い角度でどんどんつけていけます。
―― 計算が大変そうですね。
寺内 ちょっとだけしんどいですね。
―― 僕は数学があまり好きではないので、それだけで尊敬します。そういうノウハウは、これまでの経験からですか。それとも案件ごとにゼロから考えるんですか。
寺内 経験というより、興味ですかね。
街を歩きながら、階段の作り方を見ている
―― 興味、ですか。
寺内 普通に街を歩いているじゃないですか。その辺に階段とか、いろんな金属があるんですよ。どうやって作っているのかチラッと見て、自分だったらこう作るけどな、と思いながら歩いていることがよくあるので。
そういう仕事が来たときに、見ていたことを一回聞いてみるか、こっちじゃダメなのかな、この方式のほうが多分きれいだろうな、と試してみる。
―― 普段の生活の中で勉強されているというか、アンテナを張っていらっしゃるんですね。
寺内 本人は興味があるものを見ているだけです。動物園で動物を見ているような感覚に近いんじゃないかな、と。それが鉄に向いてしまっている。
―― 動物園で。
寺内 街で見たもので足りないなと思ったら、受けたときにもう少し調べてみる、という感じです。
―― 不足しているところを補いたい、先の先まで考えたい、というのはそういうところなんですね。
運び方を、作る前に1週間考える
―― 回転させて搬入する仕組みも、ご自身で考えられたと伺いました。どうやって思いついたんですか。
寺内 どうやって運んだら楽かなと、けっこう考えた結果ですね。1週間くらい考えました。搬入の前にずっと頭の中で考えていて、製作の1週間前くらいに思いついて、そうだ着脱式にしよう、と。
―― 作ってからでは遅いですもんね。作る前に、納品することまで考えて設計されている。
寺内 人が持てるレベルはこのくらいだな、これなら気持ち的にも簡単にいけるだろう、と。床はもう完成していると聞いていたので、傷つけない状態で簡単に組み立てられることが第一条件でした。
―― 現場で大きなものを見ると、どうやってこの扉から出すんだろうと思うことがあったんですが、分解して外に出すことも、トラックに乗せることも考えて設計されているんですね。
寺内 そうですね。
―― 成果物だけでなく、運び方やその後のメンテナンスまで。お客様のことを先の先まで考えていらっしゃるんですね。
次回へ続きます
第3回では、寺内さんが図面をどう読み、頭の中でどう組み立てているのかを伺いました。
次回はもう一歩踏み込みます。なぜ他社が断った仕事を、カイシは形にできるのか。溶接の姿勢、道具、そして素材の話です。