【寺内インタビュー 第4回】なぜ他社にできないことが、ここではできるのか
第3回では、図面60枚の機械フレームと螺旋階段を通じて、寺内さんが頭の中でどう組み立てているのかを伺いました。
第4回となる今回は、もう一歩踏み込みます。なぜ他社が断った仕事を、カイシは形にできるのか。溶接の姿勢、道具、そして素材の話です。
【寺内インタビュー 第3回】図面60枚から始まった ― 頭の中で組み立てるということ

断られる仕事は、月に1回来る
―― 「うちじゃ無理だ」と言われた案件を引き受けることは、結構あるんですか。
寺内 年に10回くらい、月に1回くらいはありますね。
―― それはどんな理由で他社さんは断っているんでしょうか。
寺内 まず、図面ができていない。技術面だけではなく、そういうケースもあります。
―― 図面がなくて、一から考えないといけないということですね。
寺内 金属屋さんは、図面ができていないと慎重になるところが多いんです。自分たちで考えて形にするところまでは、なかなか引き受けにくい。相手とのフィーリングが違ったら間違いになってしまいますから。そのリスクを考えると、踏み込みにくいんですよね。
―― 最初の要望が抽象的だと、こちらで補完したのに違うと言われたら、また一から設計し直しですもんね。
寺内 あとは技術的に難しいもの。それから条件が厳しいケース。歪み取りで火を使わないでほしい、ハンマーでバチバチにするのも跡がつくから嫌だ、とか。
そういう、よそで断られてしまったものを、うちでお引き受けすることが多いですね。
お客様が「顔」だと思っている部分を読む
―― そうやって断られてきた案件は、条件的に難しいものが多いと思うのですが、どう解決していくんですか。
寺内 経験に基づくところからですね。この形なら、ここをこうすれば一番きれいに見えるよね、と。その人たちが顔だと思っている部分はどこか、ということを考えます。
―― 要望の裏側を推理したうえで、ここはこうしてほしくないんだろうな、という、実際には要件に上がっていないところも補完されている。
寺内 ここ、意外といい感じにできてるねって褒められたりしますね。普通はこうならないのに、「あれ、なんかやった?」と聞かれるので、ちょっとだけやりました、気にしないでください、と。
―― そういう難しい案件を頼まれたとき、正直どういうお気持ちなんですか。不安だな、嫌だな、逆に燃えるな、で言うと。
寺内 今回もまた、いい勉強になりそうだな、と。
―― そちらなんですね。
寺内 これ一発でクリアできたらいいなと思いながらやります。完璧にできるとは思っていないので、それを今までの経験と掛け合わせて。
―― うちならできるという案件だけでなく、確証が持てないものも、経験を組み合わせて挑戦されることがある。
寺内 やりますね。ここまでは経験がある。その先が初めてでも、今までの経験を組み合わせれば、大きく外すことはないだろう、と。
溶接は、テーブルの上だけじゃない
―― 素朴な疑問なんですが、なぜ他社でできないことができてしまうんでしょうか。
寺内 ひとつは、溶接する体勢だと思います。
溶接ってテーブルの上だけじゃないと僕は思っているんです。テーブルの上なら下向きと縦しかない。でも実際は、上向きもあれば、ありとあらゆる向きがある。しかも溶接機によっても違う。全部の向きに対応するのは、なかなか大変なんです。うちは一応、全ての向きでできるようにしてきました。
―― どうやって身につけられたんですか。
寺内 大きいものを一個一個ひっくり返すなんてできませんから、同じように溶接しなきゃならない。だから仕事中にずっと練習してきました。自分の苦手な方向を、一個一個潰していったんです。
ひっくり返さないから、傷がつかない

―― みなさんは、ひっくり返す。
寺内 その方が楽ですからね。ただ、ひっくり返すたびに、どうしても傷がつくリスクがあるんです。かといって1回1回気を使ってひっくり返していたら、時間もかかる。
僕はそのままの体勢でできることがほとんどなので、傷もつかないし、ひっくり返す時間もなくなる。きれいで、しかも短縮になるんです。
―― ひっくり返さずにやるのは、技術力ですね。
寺内 普通はそんなやり方をしようとしないですよね。「火の粉が痛いじゃん」となるので。痛いですけど、我慢していったらきれいなので。
痒いところに手が届く道具たち

―― 設備の面も、他社さんと比べて揃っているんでしょうか。
寺内 細かな道具や機械が、痒いところに手が届く感じにはなっていますね。最近入れたプレスも、穴をポンと抜いてしまう機械ですけど、あれがあるから「こういう穴は余裕で開けられるよね」となる。
―― 外に出すと時間がかかる。
寺内 どうしてもディレイが出ますし、移動があると商品が傷むリスクもある。自分でできた方が、スッと終わるんです。
―― 曲げも独自の形が作れると伺いました。
寺内 「こんな形あるんか」というカーブでも作れますね。なかなか他所にはない形かなと思います。
―― 逆に、他社さんにお願いすることもあるんですか。
寺内 ありますよ。普段からお世話になっている会社さんが、うちにはない機械を持っていたりするので。「すみませんが、この部分だけお願いできないでしょうか」とお話しすることもあります。
最初はお仕事をいただいた会社さんに、今度はこちらからお願いすることもあります。それぞれの得意が持ち寄られて、不思議な輪が広がっていくんですよね。
アルミは、溶け始めると待ってくれない

―― 対応できる素材の幅が広いのが特徴だと伺いました。具体的にどういう金属を扱われているんですか。
寺内 アルミ、ステンレス、鉄、真鍮ですね。溶接できるものです。
―― 難易度でいうと、どういう並び順ですか。
寺内 簡単なのは鉄。次がステンレス。その次がアルミです。
―― 真鍮はどうなんですか。
寺内 こちらからしたら、アルミとあまり変わらないですね。ただ、扱う機会そのものが少ないので、経験を積む場がないんですよ。
―― 真鍮を使った製品で、僕たちが思い浮かべるものは何かありますか。
寺内 オブジェみたいなものですかね。機械のカバーになっていたりもします。そもそも真鍮は高いので。
―― 以前、細いアルミの加工は難しいと伺いました。なぜ難しいのか、素人にも分かるように教えてもらえますか。
寺内 溶けてなくなってしまうんです。アルミは、表面の膜はなかなか溶けないのに、中身は溶け始めると一気にいくんです。だからすごい速さでやらないといけない。ずっと同じスピードではできなくて、どんどん上げていかないといけない。
―― 細すぎると、とんでもない速さが要ると。
寺内 危ないところをちゃんと止められるかどうかにかかっているんじゃないかな、と思います。
―― だからこそ、アルミはできないという業者さんが多い。同業の方から「アルミを何とかしてくれ」とご相談が来ることもあると伺いました。
寺内 ありますね。今もアルミの手すりやステージが来ています。今月も5台やる予定です。
―― 逆に、なぜ寺内さんはアルミの加工を高品質にできるんですか。
寺内 最初はできないんですよ。みんな難しいと言っていて。一回だけ、やっているところを見たんです。それで、なんか掴むものがあった。コツが分かったぞと思ってやってみたら、できてしまった。
―― 一度見ただけで。
寺内 なんでか分からないけど、できてしまって。そのとき見せてくれた人が上手かったんでしょうね。一回見ると結構覚えるものが多くて。
動画でもいろんな技術が流れているので、そんなやり方も試してみるか、と。仕事でなくても、きれいのためならと勝手にちょっと削って練習してみたりします。
―― 逆に、寺内さんがアルミを加工されているところを他の方が見て、習得できるものだと思いますか。
寺内 一度見ただけでは、なかなか難しいみたいですね。
誰がやっても同じものが作れるように
―― 溶接をしやすくする道具、ジグをご自身で作られたと伺いました。どういうきっかけで作ろうと思われたんですか。
寺内 みんなこの辺りが苦手らしいな、じゃあ簡単にしますか、誰がやっても同じものが作れるようなものを作りますか、という流れですね。まずきれいな形が出せるようにしないといけない、というのもあるので。
―― ご自身一人ができても仕方がない。組織全体で共有できるノウハウを作れないか、というところから生まれたんですね。
寺内 機械もちょっとこの部分いらないなと思ったら改造して使っています。これは外そう、ここを付けよう、この部分があればもう少し楽なのに、というのを溶接で付け足したりして。
―― 他のお客様がそれを見て、その発想があったか、となることもあるんですね。
寺内 盲点だった、という人は結構おられます。
―― そういうアイデアはどこから湧いてくるんですか。
寺内 ひとつは、自分はできても他ができないというのがよくあるので、どうやったら他もできるようになるんだろうと考え続けることですね。今は「自分ができている感覚で覚えろ」という時代でもないので。
そこから、いろんなものを見ていて、ふといきなり閃くというか。便利なものは作りたいので。
全ての製品には、角がある

―― 技術的に、これだけは譲れないというこだわりはありますか。
寺内 角は綺麗にしたいな、というところですかね。全ての製品には角があると思っているんですよ。
本当は三方向が尖っているものが好きなんですけど、それだと人が触ってちょっと危ないので、嫌だけど自分で消すという行為をしています。
―― 面取りをして、角がきれいに生まれているという。
寺内 雑にやってよそに出す、というのはやりたくないのが基本です。
―― どの製品にも部品にも、角はどこかしら必ず登場する。その一つ一つに神経を研ぎ澄ませている。
寺内 全神経を使っている気がしますね。
―― 他のスタッフの方が作られたものも、つい角に目が行くんですね。街を歩いていても気になったりしますか。
寺内 ありますね。しんどいですね、それも。なんでここで諦めたんだろう、この人。もうちょっとやればよかったのに、あと少しのことだったんじゃないか、と。
―― カフェで話していても、木のテーブルの角まで気になってしまう。
次回予告
第3回と第4回の2回にわたって、寺内さんの技術と、その裏側にある発想を伺いました。
次回はこだわりの向こう側にある、お客様への思い。そしてカイシがこれから目指す場所について聞いていきます。
寺内 ありがとうございました。