【寺内インタビュー 第2回】難しいほど、面白い ― 他社が断った仕事を引き受ける理由
第1回では、寺内が溶接という仕事に出会うまでと、「スンとしたもの」を作りたいというこだわりについて伺いました。
第2回となる今回は、もう少し現場に踏み込みます。この仕事の一番面白い瞬間はどこにあるのか。そして、他社が断った仕事が、なぜカイシに集まってくるのか。
【寺内インタビュー 第1回】「自分だからこそ」が欲しかった ― 溶接という仕事に出会うまで

一番面白いのは、難しいものを一人で作り切った瞬間

―― 続けていく中で「これは向いているな」「面白いな」と感じた瞬間はありましたか。
寺内 やっぱり、難しいものを一人で作り切った時ですね。1週間、2週間かかるようなものを一人でコツコツ作るんですけど、できあがったそれを見て「これ本当に俺が作ったのか」と。
―― 達成感が。
寺内 半端ないです。しかも工程のひとつひとつで、かっこよくなっていくんですよ。最初はただの棒だったやつらが、四角形になったり、三角形になったり。四角かなと思ったら角が丸かったり。
そうやって完成したものが、自分のイメージに近ければ近いほど、自分の中で点数がついていくんです。
―― 職人さんというか、もはやアートの世界ですね。
寺内 どうせなら、自分の欲しいものを作りたいとしか思えないんです。「これ欲しいか」と言われたら、胸を張って「欲しいです」と言えるものを。
―― もうひとつ、印象的だと感じたのが「歪み取り」のお話でした。
寺内 歪みって、普通は焼いて(熱をかけて)取るんです。でもそうすると焼き跡が残ってしまう。だから焼かずに取れたら、一番きれいなんですよ。
―― 対策をした跡が見えない。
寺内 自分の対策は、見えないように、見えないようにやるのがプロだと思っているので。何も対策していないように見えるのに、きれいにできている。「やったぞ」と。普通はこうはならないと知っている人に対してそれができたら、なおさら面白いですよね。
10メートルのプラモデルを、パーツから作る

―― 他の仕事にはない、この仕事ならではのやりがいは何だと思いますか。
寺内 明らかに、でっかいプラモデルを作っている仕事ですよね。10メートル級の。
―― 規模が違いますね。
寺内 しかも何がすごいって、パーツまで自分で作っているんですよ。「よし、パーツを作るぞ」の段階で、1から10までのパーツをちゃんと把握して作って、「じゃあ組みますか」と。順番も頭で考えた通りにやっていって、何の障害もなくできてしまった時。頭の中で想像していた形が、目の前でどんどんいい形になっていくんです。
―― 頭の中の設計図通りに。
寺内 溶接のことを考えて、仮組みの段階から1ミリなり0.5ミリなり大きく作っておくんです。そうすると、溶接して仕上げが終わった時にジャストになる。それは溶接の手にもよるし、順番にもよる。それが計算通りにいってくれた時が、一番ですね。
うまくいかなかったら「どこでこうなったんやろう」と考える。それが想像と合致した時に、今までいろんなことを経験してきてよかったなと思います。いっぱい失敗してきたからわかることなので。
―― 経験を積むほど精度が上がっていく。
寺内 自分の縮み方のクセもわかってきます。しかも、自分が成長したら縮まなくなってくるんですよ。「あれ、前は1ミリ縮んでたのに縮んでない。なんで」って。
―― ご自身でもわからないくらい成長されている。
寺内 うまくいかないことも考慮して先々を考えているのに、「あ、うまくいっちゃった」ということがあるんです。
―― ちょっと将棋に近いですね。先を読んでいく感じが。
寺内 そうですね。まだ先のことを考えているのに、もうできちゃった、みたいな。「逃げるかと思ったら、そのまま終わってしもうた」みたいな勝負があるんですよ。
―― 一番好きな瞬間は、やはりできあがった時ですか。
寺内 できあがった時と、もうひとつ。できあがった品物を見て、純粋に「かっこいい」と喜んでくれる方がいた時ですね。そんなに喜んでくださる方は多くないんですけど。
―― 見てくれた、と。
寺内 基本、みなさん形しか見ないので。だから一声いただけた時や、気づいてくれた時は、普段以上に嬉しいです。「ありがとう」「すごいかっこいい」と言われたら、「そうだろう、僕の作ったこの子、かっこいいだろう」って。自分でも90点を超えていると思っている子を納品して、それを言われたら、もう。
―― 自分が育てた子を送り出して、「いい子だね」と言ってもらえたような感じですね。
寺内 手のオブジェを作ってくれと言われた時、実は誰も見ないだろうと思いながら指紋まで作ったんです。「俺はこの指紋がかっこいいと思って作ったんだ」と。それが伝わった時は、「そんなところまで見てくださって、ありがとうございます」という気持ちになりますね。
金属業界の品物が、日常の家具みたいに届いたらいいなと思っているんです。
「困っているから助けてほしい」を、優先する
―― 仕事を受けるときに、一番大事にしていることは何ですか。
寺内 「困っているから助けてほしい」というご依頼ですね。そういうお話は優先的に受けるようにしています。助けられるように、と思ってやっています。
逆に「うちは大企業だから、これをやれ」という感じで来られる会社さんには、「すみませんが」と引いてしまうこともあります。どんなに金額がよくても。
―― 人として、ということですね。
寺内 「お前は何でも作る側なんだろう」という感じで来られると、モチベーションも湧かないですし。それだったら「助けて」と言っている人を助けている方が、お互いにとっていいと思うので。
―― 他社で断られた案件を受けることが多いと伺っています。どういうご依頼が多いんですか。
寺内 多いのは「自分たちが作ると、どうしても仕上がりが汚くなってしまう」というご相談ですね。それでお客様のお客様からクレームをもらってしまう、と。「これをきれいに作ってほしいんだ」と来られる。
―― 同業の方からのご依頼もあるんですね。
寺内 多いですね。受けてはみたものの、自社の技術では対応できない、細かな制限に応えられない、というお話です。
―― 引き受ける時は、どんなお気持ちなんですか。
寺内 「大丈夫ですよ」と二言目には返しています。僕らは普通にきれいに作っていくので。
あとは、ワクワクもしますよね。「みんなが困るこれって、一体どんなやつなんや」「どこで厳しいんだろう」と。作っていくと「たぶんここやな、ここでみんなは難しいんだろう」とわかってくる。「大丈夫、僕にはこれの経験がある。違う仕事でね」と。
―― 素朴な疑問なんですが、なぜ他社でできないことができてしまうんでしょうか。
寺内 ひとつは、溶接する体勢だと思います。テーブルの上だけなら下向きと縦しかない。でも実際は、上向きもあれば、ありとあらゆる向きがある。うちは一応、全ての向きでできます。
―― そのあたりは、次回じっくり伺わせてください。
寺内 道具や機械の話もありますし、けっこう長くなりますよ。
依頼する・されるを、少し超えたところで

―― お客様と接するうえで、心がけていることはありますか。
寺内 自分が行った時に、笑顔にしてくれる環境を作っておくというか。「あいつ来たよ」ではなく、「久しぶり」「お前、あれやってくれたんだ」みたいな。そういう関係を築くようにしていますね。
―― 依頼する・されるを超えた関係ですね。
寺内 「来てくれたな」「納品できてありがとう」と言い合えるような。今お取引させていただいている方々とは、そういう気持ちのいいお付き合いをさせてもらっています。
―― 印象に残っているやりとりはありますか。
寺内 ある会社さんで、少しきつく当たられたことがあったんです。僕も「すみません、申し訳なかったです」と言いながら、「自分はあかんかったな」と思っていたんですけど。後日、その方から「あの時はすみませんでした」と。
どうやら、その会社の他の従業員さんが「何してんねん、なんであの人にそんなことするねん」と怒ってくださったらしくて。
―― 見てくれている方がいたんですね。
寺内 あとはクリスマスの日ですね。仕事の話をしている途中で、お客様から「今日が何の日か知ってますか」と言われたんです。
―― クリスマスですね。
寺内 「忙しいとは思いますが、あなたにはあなたの今日やるべきことがあるでしょう。仕事も大切だけど、今日しかできないことがある。夢を与えるために、買いに行ってください」と。
―― お子さんへのプレゼントを、ということですね。
寺内 そうです。そのうえで「今日はもう電話させないように、皆さんに言っておきます」とまで言ってくださって。
―― それは、なんというか。
寺内 そんなところまで気を遣わせてしまっているのも僕なんですけど。ありがたいでしかないというか。僕はその方々に、何とかいいものを作るしか返し方がないんですけどね。
何社にも断られた品物を、間に合わせた話

―― 最後に、「カイシに頼んでよかった」と言われた時のことで、覚えているエピソードを教えてください。
寺内 納期がまったくない案件がありました。何社にもあたって、どこもやってくれるところがないという品物です。
普通なら2週間ほどかかるもので、図面の枚数も多く、かなり難しいものでした。しかもステンレスと鉄、場所によっては組み付けでアルミを使うような品物で。
―― 複数の金属が混ざっているものを、その短納期で。
寺内 何回か徹夜しながら、なんとか間に合わせました。
―― 徹夜は、寺内さんお一人で。
寺内 僕一人ですね。さすがに毎回こんなことをしているわけではないですし、普段からそういう働き方をしているわけでもないんですけど。あの時はどうしても間に合わせたかったので。
事情を聞けば聞くほど、こちらも熱が入ってくるんですよ。「何社にも断られて、もう最後はここなんじゃないか」と、みんなに聞いて回った結果うちにたどり着いた、と。
―― どうやってカイシを知ったんでしょうね。
寺内 それまでまったく関わりのなかった方だったんです。噂が噂を呼んで、口コミだけでここまでたどり着いてきてくれた。「僕?」と思いながら。でも、探して求めてきてくださったこと自体が嬉しいですよね。
―― 完成した時は。
寺内 すごく喜んでくださって。終わってから一緒に飲みに行きました。「大変だったでしょう」「いや、正直しんどかったですけど、できてよかったですね」って。
―― 打ち上げみたいですね。
寺内 「あとは頑張ってね、組み立て行ってきて」と。ここまで来たら間に合うでしょう、と。
―― チーム戦なところもありますよね。
寺内 そうなんですよ。僕で終わりではない、というのは頭のどこかに入れています。それに、やるからにはお客様にも儲かってもらわないと、と思ってしまうんです。
お客様がいなくなってしまったら悲しいですし、長く長くやっていきたいので。お客様にも受けてもらって、僕らもそれなりにいただいて。それがお互いにいいのかなと思っています。
―― そのお考えが、お客様にも伝わっているんでしょうね。
寺内 それが、たまに注意されることもあるんですよ。「そういうのは後にして、まずは自分が儲けてなんぼですよ」「技術料はちゃんと取るべきです」と説教されるというか。
―― 愛のあるお叱りですね。
寺内 実は、僕があまりに安い値段で受けていたことが、回り回って元請けの社長さんに伝わったことが何度かあって。「それはいじめてるようなもんじゃないか」「それなら直接、彼にやらせる方がいい」と。
―― 間に業者さんが入っていたんですね。
寺内 「ただやられているだけじゃないか、君はそんな安売りをする人じゃないだろう」と怒られてしまって。「え」と思いながら聞いていました。
―― 長くやっていると、繋がりは見えるものなんですね。
寺内 わかっちゃったりするんですよね。「彼をいじめるんじゃない」というのがあったりして。
―― 誠実にやっていれば、回り回って返ってくる。
寺内 自分は変わらずに、一生懸命やる。これだけ変えなかったら、間違いなくやっていけるんじゃないかと思います。今まで通り、お客様が「もういいよ」と言うくらいまで欲しいものを作る。それがいいと思っています。
次回予告
ここまで前後編の2回にわたって、寺内さんのきっかけと仕事への思いを中心に伺いました。
次回はいよいよ技術の話です。なぜ他社で断られた仕事が形になるのか。溶接の姿勢、道具、そして設備。現場に入って詳しく聞いてきます。
寺内 本日はありがとうございました。