【寺内インタビュー 第1回】「自分だからこそ」が欲しかった ― 溶接という仕事に出会うまで
カイシに仕事を頼んでくださるお客様から、よくこんな声をいただきます。「他ではもう無理だと言われたのに、ここは受けてくれた」と。
なぜカイシは、他社が断る仕事を引き受けるのか。なぜそこまで仕上がりにこだわるのか。その答えは、たぶん設備や技術の説明だけでは伝わりません。
そこでこのコラムでは、代表・寺内に何回かに分けてじっくり話を聞いていきます。第1回となる今回は、溶接という仕事に出会う前のこと、この道に入ったきっかけ、そして今も変わらない仕事へのこだわりについて伺いました。

「自分にはまる仕事」を探し続けていた
―― 今日は普段あまり聞けない、寺内さんご自身のことをお聞きしたいと思っています。まず、この業界に入る前はどんなことをされていたんですか。
寺内 本当にいろんなことに興味があったので、自分にはまる仕事をずっと探し続けていましたね。接客業をやったり、工場で数物を作ったり、ピッキングの作業をやったり。おもちゃの製品のパーツを、ひたすら仕分けていくような仕事もしました。
―― 小さなパーツを、コツコツと。
寺内 そうです。無心でやっていました。終わったら次、終わったら次って。すごい数をさばいていたと思います。
―― ものづくりと、人と関わること。その両方に関心があったんでしょうか。
寺内 いや、それが最初は人と話すのがあまり好きじゃなかったんですよ。
―― 意外です。今の寺内さんからは想像がつかないですね。
寺内 そもそもコミュニケーションが取れる子じゃなかったんです。それが、苦手だと思いながら接客業をやってみたら、その時の先輩方がすごく優しくて。「こういう時はこうやったらいいんだよ」「ここは店員さんらしさを出したらいいんだよ」って教えてくださって。
自分ではもっと真面目に、真摯に取り組まなきゃダメなのかなと思っていたところに、そういう言葉をたくさんもらえたんです。その時にちょっと楽しいなと思えて、可愛がってもらえたのが大きかったですね。
―― 苦手だと思い込んでいたものが、実はそうでもなかった。
寺内 コミュニケーションが苦手だという人って、その相手と一生付き合わないといけない、ずっと関係が続くものだと思ってしまっているところがあると思うんです。だから境界線がわからなくなる。
でも店員としてお会いする方とは、もう二度と会わないかもしれない。だからこそ、その一瞬に全力を出せるんですよね。仮に失敗しても、また次で切り替えたらいい。学校みたいに三年、六年ずっと一緒というわけでもないので。
―― 一期一会だからこそ、その十分、三十分に一生懸命向き合える。
寺内 そうですね。あとは、苦手なことは苦手だとはっきり言おう、と。「これは苦手なんです。でも教えてくださったらやってみます」と。そう言えるようになったのは、あの頃の経験が大きいと思います。
求人票で見つけた、聞いたことのない仕事
―― そこから、この仕事に就こうと思ったきっかけは何だったんですか。
寺内 いろんな仕事をやってみた結果、過去の仕事に関しては「別に自分である必要はないんじゃないか」と思ってしまったんです。誰がやっても同じ、という感じがして。
「自分だからこそできた」という仕事に、なんか憧れるよねって。
―― それで探し始めた。
寺内 求人を見ていた時に、外での仕事は嫌だなと思っていたんですよ。やるなら工場の中にこもってやりたいなと。そうしたら「溶接」という求人が出てきて。
―― それが最初の出会いだったんですね。
寺内 聞いたことのない仕事だなと思って。でも「手に職をつけるなら、これか」と。それでやり始めました。二十歳になる少し前ですね。
「本気を毎日続けたら、それが普通になる」

―― 始めてみて、続けられた理由は何だったんでしょう。
寺内 やっぱり、いろんなことをみんなが教えてくれたことですね。それが楽しくて。「あんなかっこいい先輩みたいになりたいな」「あの人を超えるような自分になりたいな」と、ずっと目標にして頑張ってきました。
―― その先輩は当時おいくつくらいだったんですか。
寺内 三十代でしたね。ちょうど今の僕と同じくらいです。
―― 今でもお付き合いはあるんですか。
寺内 毎年会うわけではないですけど、最近なんとなく連絡を取ってみたら元気そうにしていて、よかったなと。常に繋がっていて、何かあったら話せる関係ではありますね。
自分の人生が変わった瞬間って、あの人との出会いだったんじゃないかなと思います。
―― どんなことを教わったんですか。
寺内 その先輩が、僕がアニメ好きだったのを知っていて、ドラゴンボールに例えて話してくれたんです。
「仕事を頑張っていく。その時、本気になる。その本気を毎日続けていくと、気づいたらそれが普通になっていく。普通の状態でも、端から見たら本気でやっている状態になるんだ」と。
「そうやっているうちに、会社にとってピンチなくらい忙しい時が来る。そこでもう一回本気を出してみろ。そしたら、さらに向こうの本気が出てくる。でもその忙しさも、いずれまた普通になる。そしたらまた壁が出てくる。また本気を出す。さらに向こう、さらに向こうへ」と。
地球人から、超サイヤ人、超サイヤ人2、超サイヤ人3へ。そうやって上がっていくんだと。
―― わかりやすいですね。
寺内 ただ、その先輩が最後に「俺はまだ半分くらいやけどな」って言うんですよ。「え、あの速さで、あの仕事で、まだ半分なんですか」と。
―― あの先輩でもまだ、と。
寺内 なかなか超サイヤ人にはなれへんな、と思いましたね。でもそれを本気でやっていけたら、これは本物だなと。バカ正直に思い込んでしまったのが、一番強かったのかもしれません。
―― 実際、本気でやらないとできないことも多かったですか。
寺内 いっぱいありました。でも不思議と、体は慣れてくるんですよ。ただ慣れるだけじゃなくて、うまいことやらないと覚えられない。ちゃんと見えていないといけないし、道具もうまく使わないといけない。それが全部慣れてきた時に、初めてきれいなものが生まれるんです。
「よく確認しろ」と、毎日言ってくれた人

―― 他にも影響を受けた方はいらっしゃいますか。
寺内 僕の苦手なところを、ずっと怒ってくれた方がいます。「よく確認しろ」と。ひとつ仕事を覚えたら、一回確認しよう、と。
僕はすぐ確認するのを忘れてしまうんです。思い込んで進んでしまう。そうすると、この仕事はやっぱり形に出てしまうんですよ。
―― 思い込みが、そのまま製品に出る。
寺内 「あれ、さっき思い込みで進んだけど、もしかして」と、ふと立ち止まって「自分、間違ってないかな」と考える。合っていると思っていても、一回止まる。それを教えてくれた方がいて。今こうやって慎重にやれるようになったのは、その人が毎日毎日、口酸っぱく怒ってくれたからです。
―― 今は寺内さんが若い方に指導する側ですよね。同じようにできていますか。
寺内 やれたらいいんですけどね。目指してはいるんですけど、なかなか難しいです。忙しさもあって、言い方が乱暴になってしまうこともある。毎晩寝る前に「あの言い方はあかんかったな」と振り返っています。
技術面もそうですけど、そういう人間力のところも、今でもあの先輩たちを追いかけている感じですね。
―― いろんな方から吸収されてきたんですね。
寺内 いろんな人のいいところを吸収しようと思っているので、出会った方の「この人のここいいな」を探すようにしています。悪いところは吸収しないようにして。いいところを探す方が、楽しいじゃないですか。
「R」も「φ」も、何のことかわからなかった

―― 始めた頃、大変だったことはありますか。
寺内 全部です。この仕事って、日常生活にないことばかりなんですよ。
図面を見るなんて、生活の中でまずないですよね。プラモデルを作るくらいでしか見ない。しかも、あんなに数字がいっぱい入って、細かいことまで書いてあるものは見たことがなかった。
「Rって何や」「φって何や」「タップって何や」と。
―― 用語ひとつひとつが初めて。
寺内 ひとつひとつが初めてで。でもこの仕事では、全部が必要な知識なんです。
目指しているのは、「スンとしたもの」

―― 図面に書かれていない、寺内さんなりのこだわりはありますか。
寺内 表現が難しいんですけど、「スンとしたもの」を作れるように、といつも思っています。
―― スンとしたもの、ですか。
寺内 できあがったものを見て、ペットボトルなら「そう、ペットボトルだよね」と言える。空き缶なら「やっぱり空き缶だよね」、手裏剣なら「手裏剣だよね」と。そういうものを作りたいんです。
どれだけ難しくても、お客様のニーズに対して相違ない、ちゃんとマッチした、揺るぎないものを納品したい。
―― そのお客様のニーズは、どうやってつかむんですか。
寺内 納品の時にコミュニケーションを取るんですよ。「ここはこうやな」「ここはああやな」と聞いていくうちに、だんだんわかってくる。この人たちが欲しいのはこういうものなんだ、と。
ケーキと同じだと思うんです。「ケーキ」と一口に言っても、人によってはチーズケーキだったり、いちごは1個じゃなく3個乗っていてほしかったり。それって提供してみないとわからない。「できましたよ」と思っていても、「もう少し甘くしてほしい」と言われることがある。人の口に入るものだから、合う合わないは必ずあるんです。
だから数を重ねていけば、必ずその方の欲しいものになるだろうと。
―― 100点を目指して作られるわけですね。
寺内 基本は100点を目指して作っています。でも90点になってしまったり、「くそー」と思いながら80点になったり。それであんまり納得がいかなかったら、お客様に連絡するんです。「すみません、あと1日いただけませんか」と。
―― 製品としては成り立っている状態でも、ですか。
寺内 製品としては成り立っているんですけど、自分の中で納得がいっていない部分があって。70点のものを85点、90点まで持っていきたい。1日あればできるんです。
もちろん、その分の料金はいただきません。自分の落ち度なので。
―― 締め切りに追われる仕事だと思うのですが、それでもクオリティを優先されるんですね。
寺内 やっぱり許されるなら、ちゃんと作らせてほしいとお願いしたくなってしまうんです。
だから、あまりにも無理な納期や条件のお話は、最初から「すみませんが、当社ではできません」とお断りすることもしばしばあります。自分が納得いくもの、お客様に胸を張って出せるものができそうになければ、中途半端なものは納品しません。「それでしたら、こういうところにお頼みください」と、正直にお伝えしています。
―― 相当なこだわりですね。
寺内 わがままですよね。
―― いえ、変にお受けして変なものを納品したら、お互いによくないですから。
寺内 そういう中途半端なことはしたくないんです。
次回へ続きます
前編では、寺内さんが溶接に出会うまでと、ものづくりに対するこだわりを中心に伺いました。
後編は、もう少し現場に踏み込みます。この仕事の一番面白い瞬間はどこにあるのか。そして、他社が断った仕事が、なぜカイシに集まってくるのか。